乳房炎の予防講座

(ここに載せることは、理論的というよりも、経験から生まれたものである)

乳房炎の予防

牛乳ができるまで。

乳房炎の予防に触れる前に、牛乳がどういう風に出てくるかを、もう一度整理してみる。

乳量曲線。

                   平均的な乳量曲線と受胎・妊娠期間

分娩をしなければ泌乳は開始されない。当たり前であるが、得てして忘れていることである。もともとは、生まれてきた仔牛の為に造られるオッパイなわけで、機械的に出てくるのではないということを理解して欲しい。現在、乳牛の100%近くは人工授精によって受胎する。受胎して280日もの間の準備期間があっての牛乳なのである。また、単胃動物とは異なって食べた栄養は牛の体の中で発酵され反芻(18時間以上)を繰り返し、乳腺に血液を送り、始めて牛乳が造られる。牛乳1sできるためには、血液が400ℓ以上乳腺に送る必要があり、30kgの牛乳ができるためには、12t以上の血液が必要となる。600s〜700kgの牛の体の中でいかに緻密に大変なことが行われているか理解しなければならない。手搾乳をしていた時代を経験した年代であれば、牛とのコミュニケーションが乳房炎の重要な誘因(俗にいうと、手を抜いたらダメ)である事は、いやというほど知らされたはずである。近年、機械化されても、その原点は変わっていないわけである。

牛の1日を追ってみる(スタンチオン繋ぎ牛舎の例)

@朝、牛舎の戸の開く音がする ⇒ Aパーラー処理室の搾乳準備の音(モーター、バケツ、など) ⇒ Bエサを運ぶ給餌車両の音とエサの臭い ⇒ Cミルカーのパルセーターの音(徐々に近づく、自分の順番が近いことを感じる) ⇒ D前搾乳、雑巾で拭く、プレディッピングなどの刺激 ⇒Eオキシトシンの分泌 ⇒ F乳房が張ってくる ⇒ Gミルカーの装着 ⇒ Hミルカー離脱(最近は自動離脱装置が普及している) ⇒ Iディッピング(搾乳後の乳頭口消毒) ⇒ バーンクリーナー(糞を牛舎外に運ぶ設備)の音など ⇒ 搾乳後の給餌の臭いと音(給餌回数は牛舎ごとに異なる)など ⇒ 夕方の搾乳@〜H ⇒ 1日最後の給餌 ⇒就寝(朝まで寝ているわけではない、食べて、反芻して、少し寝て、また食べてを繰り返す)

このように、牛の目、耳、口、音、臭い、感触などを感じて、作業をする人間との距離を測っているのではないだろうか。@〜Hのどれかが急に質的にも量的にも急変したり、順番が変わると、牛は違和感を感じても不思議でない。季節の変わり目に乳房炎が増えるのは、こういうことも誘因となるだろう。

乳腺に溜まった牛乳が出てくる仕組みと、乳房炎になる過程

nyuubou-2@⇒A⇒B⇒C⇒D 牛も心の準備nyuubou-4

もし、牛にとっていやだな」と感じることがあると(牛によって個体差はあるが)、今まで筋肉を収縮させていたオキシトシンの作用を遮断させてしまうアドレナリンという物質が出現、乳房が張っていても、射乳が起こりにくい状態となる。

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乳頭口も完全ではないがふさがる       ⇒         気づかないでいると、這い上がり現象が起こり

                               乳頭口が真空に引っ張られ、めくれてしまう。

                               牛が肢を挙げたり、痛がるときがある

 

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めくれた乳頭口付近の粘膜に炎症が起きる、体細胞が増加!

炎症が起きても、菌がなければ感染は成立しない     ⇒         細菌の存在で感染が成立する

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乳房炎の成立

 

乳房炎になると、現段階では治療方法は抗生物質が主体である。抗生物質を使用すると、必ず休薬期間(薬剤の残留を考慮して牛乳・肉などの出荷を制限する期間)が発生し、乳房炎が治っても牛乳が出荷できないため、大きなリスクを背負うことになる。(平成18年6月から、「ポシティブリスト制」の導入により、休薬期間が延長されたため、治療方法の選択は重要である。)酪農家を悩ませ、獣医師をも悩ませる曲者! 乳房炎による経済的損失は1頭につき5万円以上とも言われている。年間のべ頭数が20頭とすると、100万円以上の損失、それだけではない、乳房炎のときの牛の看護、そうでない牛と差別しなければならない管理のリスク、薬剤の混入防止のための精神的リスク、それはもう大変なものなのである。

乳房炎の原因

原因菌の侵入が乳房炎の原因であることは理解されたと思う。細菌の種類により症状が異なり、甚急性・急性・慢性、合併症がある場合など、様々である。日頃から牛舎にどんな細菌類がいるか知っておくことは、予防的見地から重要である。そのために、バルク乳のモニタリングを実施し、細菌の種類・薬剤感受性などを把握しておくことは必須と考える。特に最近は、黄色ブドウ球菌や無乳性レンサ球菌などといった、臨床症状を示さないで、伝染していく細菌が、蔓延している牛舎が増加している。

環境性の細菌と伝染性の細菌との分布の違い

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環境由来の細菌は、牛を取り巻く環境のすべての場所に存在するもので、環境整備をして常にコントロールに心がける必要がある。特に、乳頭が汚れる牛床の管理は重要と考える。

 

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従来は、そこの牛舎には存在しなかった伝染性の細菌類は、キャリアといわれる媒体により、いつの間にか進入してしまう。

日頃からの侵入からの防衛は重要である。

 

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搾乳機器(手指、雑巾、ライナーゴム、バケツなど)の管理は、乳頭近辺の細菌を左右するといっても過言でない。

搾乳準備をする処理室は、湿度・室温が高く、細菌の増殖にはうってつけの条件であるため、各器材の洗浄及び整理整頓は妥協を絶対に許さない「心構えが肝心である。

 

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