きくいち君の予防講座
(ここに載せることは、理論的なものではなく、経験から生まれたものである。)
乳熱及び産前・産後起立不能症の予防
診療年報の常に上位に位置する疾病で、生産者の精神的にも経済的にも大きなダメージを与える厄介な病気である。お産のたびに、心配の種となる。また、年齢が高くなるほど発生率が高くなる傾向にあり、起立した後も、乳房炎、後産停滞、神経麻痺、4胃変位など、後遺症が併発する確立が高いことも悩みの種である。現在は、グルコン酸カルシウム注射によって治療効果が高い。しかし、生産者側から考えると、注射を射たないほうがいいわけで、トレイサビリティーの時代、良い牛乳を生産するためにも予防は重要である。
起立不能とは?
いわゆるお産の前後立てなくなってしまう病気の総称(症候群)であるが、最近は泌乳後期・分娩後一ヶ月して発生を見ることがある。血液検査をすると、カルシウム、リン、マグネシウムなどのミネラルが低下し、肝臓の機能低下を起こしていることが多い。が、中には低下しないでも起立不能になる牛もいる。
起立不能が起きる理由
体重700kgの乳牛の体の中にあるカルシウムは、約9s強といわれている。乳牛が1年間に出す牛乳は8500s以上、その中に含まれるカルシウムは11kg弱。自分の体にある量よりも多くのカルシウムが牛乳に出てしまうことになる。牛乳1kgを生産するためには、400倍もの血液が必要なわけで、初乳10kg/日を造るには4トンの血液が要される。自分の体重の6倍もの血液が循環することになる。分娩という大仕事を果たした直後に、それも初乳という濃度の濃い牛乳を造ることが如何に大変か、想像すれば分かると思う。
泌乳中期から乾乳期までのCa代謝 分娩直後から泌乳ピーク時のCa代謝
(必要以上のカルシウムは骨に蓄積される) (カルシウムが不足するとホルモンの作用で骨から溶出される)
栄養の吸収不足かホルモン作用が弱く骨からの溶出が不足すると、血液中のCaが低下し、筋肉麻痺やけいれん・神経麻痺を起こして起立不能になってしまう。
治療は!
獣医さんの腕の見せ所、カルシウム剤の注射で起立するが、解決策にはならない。低カルシウムになる可能性はなくならないのである。また、分娩前後に起こる難産、後産停滞、神経麻痺、4胃変異などの合併症の起きる可能性が高いことを考えると、早期発見と予防対策が大事ではないだろうか。
予防対策!
いつ発生するかわかっていれば対策を講じることができるが、そういうわけにもいかない。分娩のときに焦点を合わせていては問題は解決しない。
1、乾乳する時のチェックを重要視すること。
@受胎が遅れて、乾乳期間が長期になった牛Aやせすぎている牛B牛群との比較で乳量が出すぎた牛C前乳期に4胃変位、肝障害等の消化器の病気になった牛D牛群の中で異常に乳脂肪・無脂固形分が高すぎた牛E慢性の疾病(潜在性乳房炎、蹄病、関節の病気など)に罹っている牛F軟便、下痢便を繰り返す牛G食欲不振を繰り返す牛H群飼いでいじめにあっている牛H乾乳期間が短すぎる牛、など問題牛をリストアップする。
2、リストアップした牛は消化器及び代謝系に何らかの問題を抱えている牛なので、分娩時、起立不能、難産などの可能性の高い牛と位置づける。特に第1胃の正常化、ビタミンの強化、ミネラルバランスの正常化を乾乳時期に行うことは重要である。
また、慢性病を治療しておくのも忘れてはならない
3、分娩前2週間くらい前から、カルシウムの給与量は低レベルにすることを忘れないこと。高レベルで給与すると、骨から溶出するためのホルモンが出なくなり、分娩時の血液にカルシウム補給ができなくなり、低カルシウム血症を起こし、乳熱を起こすことになる。
4、ワクチネーション、駆虫、磁石の投与などの予防対策は絶対に忘れないこと。なぜならば、泌乳期に使用できない薬品や休薬期間の規制のあるものが多いため、乾乳は前乳期の疲労回復だけでなく、次の乳期の準備
5、分娩に時間を要した場合、分娩直後、長時間片側で牛臥していると下側の肢の血行障害が起こり、神経麻痺が起きやすくなる。必ず寝返りをさせること。特に、初産牛の過大児分娩は産道が痛みやすいので、神経麻痺は避けなければならない。
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