━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.遺伝子組換え食品とはどんなもの?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■遺伝子組換え食品とは
遺伝子組換えとは、ある生物から取り出した有用な遺伝子を他の食用となる植物などに組み込むこと
をいいます。遺伝子組換え技術を用いて作られた食品が遺伝子組換え食品です。だいずやとうもろこ
しをはじめとする遺伝子組換え食品ですが、その有用な形質の代表的なものが、除草剤に抵抗性(耐
性)を示す遺伝子を組み入れた「除草剤耐性」や、特定の害虫に対してだけ有害に作用する物質を作
り出す遺伝子を組み入れた「害虫抵抗性」などです。どちらも農薬使用の効率化や労力の軽減、収穫
量の増大などの利点をもっています。
■従来の品種改良との違い
従来の交配による品種改良でも、自然に遺伝子の組換えは起きています。
遺伝子組換え技術が従来の品種改良と異なる点は、人工的に遺伝子を組み換えるため、生物の種類に
関係なくいろいろな生物を品種改良の材料にすることができる点です。これにより、農作物などの改
良の範囲を大幅に拡大できたり、改良の期間が短縮できます。
■遺伝子組換え添加物もある
食品添加物の製造には微生物が用いられることがあります。従来用いてきた微生物に新たな性質を
付け加える遺伝子を組み入れた遺伝子組換え微生物を用いて作られる添加物を、遺伝子組換え添加
物と呼んでいます。遺伝子組換え微生物は、主として、添加物の生産性向上や品質向上の目的で利
用されています。
━━━━━━━━━━━━
2.安全性審査の流れ
━━━━━━━━━━━━
遺伝子組換え農作物の安全性評価については、
[1]生物多様性(環境)への影響
[2]食品としての安全性
[3]飼料としての安全性
について、それぞれ科学的な評価を行い、すべてについて問題のないもののみが栽培、流通される仕
組みとなっています。
このうち、食品安全委員会では、[2]食品としての安全性と[3]飼料としての安全性(のうち畜産物を
通したヒトの健康への影響)についての安全性評価を行っています。
遺伝子組換え食品や遺伝子組換え添加物の食品としての安全性については、日本では厚生労働大臣の
安全性審査が行われていないものの製造、輸入、販売などが禁止されています。遺伝子組換え食品や
遺伝子組換え添加物の安全性審査では、企業等から厚生労働省に申請が提出され、厚生労働大臣が食
品安全委員会に安全性評価を要請します。食品安全委員会では、専門家によって構成される「遺伝子
組換え食品等専門調査会」で科学的な根拠に基づいて調査審議を行います。その後国民の皆様からの
意見や情報の募集を行い、その結果を踏まえて、評価結果をとりまとめて、食品安全委員会から厚生
労働大臣に通知します。安全性に問題がないと判断された食品は、その旨厚生労働省から公表されま
す。
厚生労働省で安全性審査が終了し公表された遺伝子組換え食品としては、
[1]じゃがいも(ばれいしょ)
[2]だいず
[3]てんさい
[4]とうもろこし
[5]なたね
[6]わた
[7]アルファルファ
[8]パパイヤ
の8作物253品種、遺伝子組換え添加物としてはα−アミラーゼ(酵素)、キモシン(酵素)など7種類
16品目があります。
※安全性審査の手続を経た旨の公表がなされた遺伝子組換え食品及び添加物一覧
(厚生労働省医薬食品局食品安全部(平成25年5月2現在))
http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/dl/list.pdf
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
3.安全性の評価はどのように行われる?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■遺伝子組換え食品の評価のポイント
遺伝子組換え食品については、品目ごとに安全性の評価を行うことになっています。主に、遺伝子組
換えによって新たに付け加えられたすべての性質と、遺伝子組換えによって、他に悪影響が生じる可
能性がないかという点について、これまでに食べられてきた食品(非遺伝子組換え食品)と比較し、評
価を行います。
例えば、遺伝子組換えとうもろこしの安全性評価を行う場合は、遺伝子組換えではない、従来品種の
とうもろこしと比較し、同じように食べても問題がないかについて、食品安全委員会が策定した安全
性評価基準に基づき、様々な観点から、安全性を確認しています。
具体的な安全性評価のポイントは、
・組み込まれた遺伝子は安全か
・組み込まれた遺伝子が作り出すタンパク質に有害性はないか
・組み込まれた遺伝子が作り出すタンパク質がアレルギーを誘発する可能性はないか
・組み込まれた遺伝子が間接的に作用し、他の有害物質を作る可能性はないか
・栄養素、栄養阻害物質などの構成成分や量が大きく変化していないか
などです。
■遺伝子組換え添加物の評価は
遺伝子組換え添加物の評価も同様に、食品安全委員会が策定した安全性評価基準に基づいて、遺伝子
組換えによって新たに付け加えられたすべての性質と、遺伝子組換えによって悪影響が生じる可能性
がないかという点について、宿主(遺伝子を組み込む元々の微生物)や従来の添加物と比較して評価を
行います。
添加物は、その性質、用途、製法等が多岐にわたることから、それらを考慮した評価が必要になりま
す。例えば、添加物のうち、酵素などは、食品の製造過程で変性したり失活したりする場合が多く、
最終的には食品から除去されていることも多くあります。このため、必要に応じて、精製度や使用形
態、食品中の残存なども考慮しながら、個別に評価を行っています。製造に用いられた組換え微生物
が残っている添加物については、加えて組換え微生物について詳細な評価を行うこととなります。
■安全性評価基準など
遺伝子組換え食品の安全性評価基準などはこちらをご覧ください。
http://www.fsc.go.jp/senmon/idensi/index.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.遺伝子組換え食品に関するQ&A
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Q1 遺伝子組換え食品を食べても大丈夫なのですか?
A1 日本では、2001年4月から、安全性審査を受けていない遺伝子組換え食品またはこれを原料とす
る食品の製造、輸入、販売が法律で禁止されています。
安全性審査では、食品安全委員会が遺伝子組換え食品の人への健康影響を評価します。その際は、さ
まざまなデータに基づき、組み込んだ遺伝子によって作られるタンパク質の安全性や組み込んだ遺伝
子が間接的に作用し、有害物質などを作る可能性がないことを確認しています。その結果、安全性に
問題がないと判断した食品を厚生労働省が公表しています。市場に出ている遺伝子組換え食品は、安
全性が確認されたものです。食べ続けても問題はありません。
Q2 遺伝子組換え食品の評価では、アレルギーについて調べているのですか?
A2 アレルギーについては、遺伝子組換えにより新たに生じたタンパク質がアレルギーを誘発しない
か、すでに知られているアレルゲン(アレルギー原因物質)と構造が似通っていないかなどを評価して
います。
具体的には、まず次の4事項について調べ、挿入された遺伝子により作られるタンパク質の(発現)
量も含めて総合的に判断した上で、安全性を確認しています。
(1)挿入する遺伝子を提供する微生物又は植物等にアレルギー誘発性の報告があるか。
(2)挿入された遺伝子により作られるタンパク質がアレルゲンであるという報告があるか。
(3)挿入された遺伝子により作られるタンパク質が胃・腸で消化しにくかったり、熱に対して安定で
あったりしないか。
(4) 挿入された遺伝子により作られるタンパク質は、既に知られているアレルゲンと構造が似通って
いないか。
上記4項目でアレルゲンとなり得る可能性が否定できない場合は、
(5)アレルギー患者の血清を用いて、免疫反応が起こるか確認することになります。
Q3 実験動物を用いた長期毒性試験が行われることはあるのですか?
A3 遺伝子組換え食品の安全性評価は、食品安全委員会で定めた評価基準に基づき、これまで食経験
のある従来品種との比較により行っています。
主な評価項目は、
[1]導入された遺伝子の由来の微生物や植物及びそれによって作られるタンパク質の有害性やアレルギー
誘発性
[2]遺伝子を導入することによる意図しない有害性
[3]食品中の含有成分が従来品種と比較して大きく変化したり、新たな成分が作られていないか
などがあります。
これらの詳細な評価により安全性が十分に確認できない場合には、必要と考えられる慢性毒性試験や生殖
に及ぼす影響に関する試験などにより安全性の確認を行うことが評価基準に規定されています。
Q4 「遺伝子組換えではない」と表示された食品を見ますが?
A4 遺伝子組換え食品の表示は、安全性が確認された遺伝子組換え食品について、現在、商品化が可
能な
[1]じゃがいも(ばれいしょ)
[2]だいず
[3]てんさい
[4]とうもろこし
[5]なたね
[6]わた
[7]アルファルファ
[8]パパイヤ
の8農産物とその加工品(一部を除く)について、遺伝子組換え農産物が含まれているかに関する表示
が義務付けられています。一方、遺伝子組換え農産物を含まない場合は表示義務はありませんが、任
意で「遺伝子組換えではない」などの表示をすることができます。
なお、油やしょうゆなどは、遺伝子などの検出が不可能なので、遺伝子組換えの表示義務はありませ
ん。ただし、任意で表示することは可能です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2.「遺伝子組換え食品に関する法的規制」(遺伝子組換え食品等専門調査会座長 澤田純一)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
遺伝子組換え作物とそれに由来する遺伝子組換え食品の安全性に関する法的な規制は、主に二つの法
律に準拠していることをご存じでない方もおられるようである。
遺伝子組換え食品の元となる遺伝子組換え作物については、略称カルタヘナ法(正式名は、「遺伝子
組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」)に基づいて、環境中の他の生
物への影響が評価される。組換え作物を田畑で栽培するためには、カルタヘナ法で規定された第一種
使用(開放系での栽培)の大臣承認(農林水産大臣及び環境大臣)が必要とされる。
一方、遺伝子組換え食品のヒトへの健康影響に関しては、厚生労働省所管の食品衛生法により定め
られた「食品、添加物等の規格基準」に基づいて安全性評価が必要とされ、厚生労働省はその評価を
(別の法律である食品安全基本法の規定に従って)食品安全委員会に依頼することとなる。これが、食
品安全委員会に遺伝子組換え等専門調査会が設けられている所以である。従って、食品安全委員会の
守備範囲は、ヒトへの健康影響を評価(リスク評価)することである。現在に至るまで、数多くの遺伝
子組換え食品の安全性確認が行われてきたが、ヒトへの健康影響の点で問題が生じた事例はまだ確認
されていない。
ここで、カルタヘナ法と食品衛生法の遺伝子組換え生物の対象範囲が異なっていることにも留意し
て頂きたい。カルタヘナ法は、あくまで生きた生物(発芽できる種子も含まれる)を規制の対象とする。
一方、食品衛生法の対象は食品であり、加工等を受けて死んだ作物や微生物も対象に含まれる。